日本のパンクシーンに再び熱い話題が舞い込んできた。伝説的バンド Hi-STANDARD(ハイスタ) が、THE BONEZ のドラマー ZAX を迎え、正式に再始動を発表したのだ。これは単なるバンドの復活ではなく、日本のロック史における新しい章の始まりである。
喪失から立ち上がる決意
2023年、ドラマー恒岡章の急逝はHi-STANDARDにとってもファンにとっても計り知れない衝撃であった。
彼の正確無比でありながら温かみのあるドラミングは、バンドのサウンドに不可欠な要素であり、単なるリズムではなく“Hi-STANDARDの鼓動”そのものだった。
訃報が伝わったとき、SNSには「信じられない」「まだ受け止められない」といったファンの声が溢れ、シーン全体が深い悲しみに包まれた。
だが、残された難波章浩と横山健は歩みを止めなかった。恒岡の存在があまりにも大きいことは分かっていたが、それでもバンドを続けることこそが彼への最大の敬意だと信じていた。彼らは新しい未来を模索し続け、葛藤を抱えながらも「音を鳴らし続けたい」という強い意志を持ち続けたのである。
新ドラマーを求めたオーディション
恒岡章の急逝後、Hi-STANDARDは活動を続けるべきか葛藤を抱えながらも、新しいドラマーを迎えるために大規模なオーディションを実施した。数百本もの応募動画が寄せられ、国内外のドラマーたちが「ハイスタを叩きたい」という熱い想いをぶつけてきた。
しかし、いくら技術が優れていても、恒岡の存在を“代わり”として埋められる者などいなかった。難波章浩と横山健は「本当にこの先もハイスタを続けていけるのか」という問いを繰り返し、簡単に答えを見つけられなかったのである。
その中で自然に存在感を示していたのがZAXだった。彼はオーディションの一参加者ではなく、すでに 『SATANIC CARNIVAL 2023』 や 『NOFX THE FINAL JAPAN TOUR』 でサポートドラマーとしてステージに立っていた。その演奏には単なる迫力だけでなく、バンドの歴史や空気感を尊重する姿勢があり、難波と横山は「ZAXしかいない」と確信するようになったのである。
サポートから正式メンバーへ ― ZAXの軌跡
ZAXは、Pay Money To My PainやTHE BONEZといったバンドでキャリアを積み、国内外で活躍してきた実力派ドラマーだ。特にPTPでは2012年にボーカルのKを失うという悲劇を経験し、突然の喪失は彼自身の音楽人生に深い影を落とした。それでも音楽を続け、仲間と共に歩んできた経験は、彼の人間性をより強く磨き上げることになった。
Hi-STANDARDもまた大切なドラマーを失っていた。だからこそ、同じ痛みを知るZAXが自然に寄り添い、支えることができたのだろう。サポートでのステージを重ねるうちに難波や横山との信頼関係は深まり、2025年11月24日、ついに正式加入が発表された。これは偶然ではなく、喪失を知る者同士だからこそ築けた必然の流れであったのではないだろうか。
バンドの歴史が語るもの
ここで改めてHi-STANDARDの歩みを振り返っておきたい。
1990年代、彼らは日本のインディーズシーンから頭角を現し、メロディック・パンクを武器に圧倒的な人気を集めた。1999年のアルバム『MAKING THE ROAD』は国内でミリオンセールスを記録し、パンクバンドとしては異例の成功を収めている。
また、自主企画フェス AIR JAM を通じて、当時の若手バンドを数多くシーンに引き上げた功績も大きい。彼らがいなければ、日本のパンク・ハードコアシーンはここまで拡大しなかったと断言できる。
そうした歴史を背負いながらの「再始動宣言」は、単なる復活を超えた意味を持っている。Hi-STANDARDは常に時代を切り拓いてきたバンドだからこそ、今回のニュースはシーン全体にとって希望の象徴となるのだ。
新作『Screaming Newborn Baby』が告げるもの
2025年11月26日、Hi-STANDARDは新たなミニアルバム 『Screaming Newborn Baby』 をリリースする。
タイトルが示す通り「新たな誕生」「初めての叫び」を意味する作品であり、新生ハイスタのスタートを高らかに告げるものだ。
レコーディングではクリックを使わず、編集も最小限にとどめ、生々しい演奏をそのまま収録する方針がとられた。これは初期衝動を大切にし、ライブ感をそのまま音源に封じ込めたいという意志の表れである。
配信ライブでは「MAXIMUM OVERDRIVE」「Dear My Friend」といった代表曲に加え、新曲「Song About FAT MIKE」も披露。ZAXの力強いドラムがバンドの新しい姿を鮮烈に示した。
新曲「Song About FAT MIKE」
核はそのまま、新しい血が流れ込む
Hi-STANDARDの魅力は、胸を突き刺すメロディとシンプルながら心を揺さぶる歌詞にある。その核は変わらない。だが、そこにZAXの持つアグレッシブなビートが加わることで、新しいダイナミズムが生まれる。
THE BONEZで培われたロックの重厚感や、PTPでのエモーショナルな表現力が、ハイスタのメロディック・パンクに新しい色を加えるのだ。
長年のファンにとっては「懐かしさと新しさ」が共存する音楽体験となり、これから出会う若い世代にとっては「今を生きるHi-STANDARD」として響くだろう。これは世代を超えて受け継がれていくバンドにしかできない芸当である。
シーンへのインパクトとファンの期待
Hi-STANDARDの再始動は、単に一つのバンドの活動再開にとどまらない。
現在の日本のロック・フェスシーンやパンクシーンにとって、彼らの存在感は圧倒的であり、登場するだけで空気を変える力がある。
若い世代のバンドにとっては「伝説と同じステージに立つこと」が大きな目標となり、観客にとっては「青春の再来」と「未来への期待」の両方を感じられる機会となる。
SNSではすでに「新作が待ちきれない」「ZAX加入は最高の選択」といった声が多数寄せられており、11月のリリースに向けて熱気は高まる一方だ。
結び ― 再始動ではなく進化
ZAXの加入は単なるドラマー交代ではない。
彼自身もPTPで大切な仲間を失った経験があるからこそ、Hi-STANDARDが抱えた喪失の痛みに共鳴し、支え合うことができる。
それは、Hi-STANDARDが悲しみを乗り越え、未来に向けて進化していく証であり、同時にZAXにとっても新しい音楽人生のスタートとなる。
2025年11月の新作『Screaming Newborn Baby』を皮切りに、Hi-STANDARDの物語は新しい章へ突入する。
「新しいHi-STANDARD」は、ここから始まる。
BRAHMANの30周年フェス「尽未来祭 2025」に出演の噂
2025年に開催されるBRAHMAN主催のフェス 「尽未来祭 2025」 に、Hi-STANDARDがシークレット出演するのではないかという噂がSNSを中心に広がっている。
しかし、公式に公開された動画内でメンバーは「再始動後の最初のライブは“人のにはでない”」と明言している。これは、バンドとしての新たな一歩を自らの意志で踏み出すという強い姿勢を示した発言だといえる。
さらに、難波章浩は以前にX(旧Twitter)で「尽未来祭には出れません」と明確にポストしている。これらの発言を踏まえると、尽未来祭への出演は現時点では考えにくく、シークレット枠にHi-STANDARDが登場する可能性は低いだろう。
とはいえ、彼らが再始動後の初ライブをどのような形で行うのかには、大きな注目が集まり続けている。
THE BONEZは超多忙になる?
ZAXのHi-STANDARD加入により注目されるのは、THE BONEZのメンバーがさらに多忙になるという点である。もともと彼らはそれぞれが他の音楽プロジェクトを掛け持ちしており、日本のロックシーンでも特に活動の幅が広いバンドといえる。
- JESSE(Vo./Gt.)
RIZEのフロントマンとしても知られ、ソロ名義やE.D.O.など多方面で活動。ミクスチャーロックの象徴的存在であり、国内外でカリスマ的な影響力を持つ。 - T$UYO$HI(Ba.)
Pay Money To My Painのベーシストでもあり、現在は Dragon Ashのサポートベーシスト としても活躍。セッションやサポートでも幅広く活動し、重厚でグルーヴィなプレイには定評がある。 - KOKI(Gt.)
THE BONEZに加え、Tears of the Rebel のギタリストとしても活動。新世代バンドとのつながりを持ち、ジャンルを越えた音楽表現に挑戦している。 - ZAX(Dr.)
Pay Money To My Painでキャリアを重ね、現在はTHE BONEZと並行して新たにHi-STANDARDへ正式加入。複数のバンド活動を掛け持つことで、今後はさらに多忙になることが予想される。
THE BONEZは全員が別のフィールドでも実績を持つ稀有なバンドである。ZAXのHi-STANDARD加入によってスケジュールは一層タイトになるが、その経験がシーンを横断的につなぐ大きな原動力となるだろう。